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千葉地方裁判所松戸支部 昭和44年(ワ)195号 判決

原告

守屋千春

ほか一名

被告

株式会社東洋自動車センター

ほか二名

主文

一  被告らは各自、原告守屋寿美子、同守屋千春、守屋久美に対し各金二二九万六、七三五円および原告らに対する右各内金一九六万〇、九〇六円につき、それぞれ昭和四四年一〇月一八日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らの被告らに対するその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを二分し、その一を原告らの、その余を被告らの負担とする。

四  この判決の原告ら勝訴の部分は、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者双方の申立

(原告ら)

「被告らは各自原告守屋寿美子に対し五九一万七、二四四円、同守屋千春に対し四八一万七、二四四円、同守屋久美に対し四八一万七、二四四円および同守屋寿美子に対する内五三七万九、三一三円につき、同守屋千春に対する内四三七万九、三一三円につき、同守屋久美に対する内四三七万九、三一三円につきそれぞれ昭和四四年一〇月一八日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決と仮執行の宣言を求める。

(被告ら)

「請求棄却と訴訟費用原告らの負担」の判決。

第二  請求原因

一  事故の発生と訴外原銀一(昭和一五年二月八日生)(以下銀一という)の死亡

(一)  発生時 昭和四三年一二月二六日午後一一時三分ごろ

(二)  事故現場 松戸市胡録台三二六番地先道路上

(三)  事故車 普通乗用自動車(習志野五さ二九六八号)

(四)  運転者 被告宮本武信

(五)  態様および死亡 国道六号線方面より松戸新田方面に時速五〇キロメートルで進行中、同所道路上を歩行中の銀一と接触し、同人を死亡させた。

二  被告らの責任

被告らはそれぞれ次の理由により原告らが本件事故によつて受けた損害を賠償する責任がある。

(一)  被告武信は、事故車を酒気を帯びて運転したうえ、前方不注視 安全運転義務違反の過失があるから、不法行為者として民法七〇九条による責任。

(二)  被告会社は、自動車売買、修理ならびに加工に関する義務を主とする資本金一〇〇万円の会社で、事故車を会社の業務のために使用しており、また被告幸一は事故車を所有し、被告会社の代表取締役で、被告武信の兄でもあつて、同車を自己のためにも使用していた者であるから、いずれも事故車を自己の運行の用に供する者として自賠法三条による責任。

三  損害

(一)  銀一の逸失利益

(イ) 同人は、一級ボイラー技師および危険物取扱主任者の資格を有し、昭和四二年一一月ごろから、ホテル業を営む株式会社法華クラブ東京支店に入社し、同社設備課機械ボイラー係として勤務し、同人が同会社から支給される給与は死亡当時毎月四万七、八〇〇円で、昭和四四年三月からは毎月五万七、三〇〇円に昇給が予定されていたから、同人は同会社の定年である満六〇年まで勤続したとすれば、昭和七五年一月まで毎月同額の給与を受けたはずである。

(ロ) さらに同人は、前記会社に勤務するかたわら隔四日毎に右会社の夜勤日の昼間および夜勤明の休日を利用し臨時として自宅の近くにある有限会社永野紙器製作所に勤務し、段ボール組立等の仕事に従事し、右会社から月額三万〇、〇〇〇円の給与を受けていたから、本件事故により死亡しなければ、右会社に少くとも満六〇年まで勤務することが可能であつた。

(ハ) しかして、同人の生活費はその収入額の三分の一をこえないから、これを収入額から控除すると、昭和四四年一、二月は毎月五万一、八六七円同年三月から同七五年一月まで毎月五万八、二〇〇円となり、この合計金額が同人の蒙つた損害となる。そこで、ホフマン式計算方法(月割累計)により年五分の割合による中間利息を控除すると、その現在額は一、三一三万七、九四一円となり、同人は本件事故によつて死亡したことにより、右同額の得べかり利益を失つたことになる。

(ニ) そこで、原告寿美子は銀一の妻、同千春、同久美はその子であるから、いずれも相続人として、右金員の各三分の一の四三七万九、三一三円をそれぞれ相続した。

(二)  原告らの慰藉料

原告寿美子は若くして唯一の働き手である夫、同千春、同久美は幼くして父を失い、その精神的打撃は甚大である。したがつて、慰藉料として原告寿美子に対しては二〇〇万〇、〇〇〇円、その余の原告に対してはそれぞれ一〇〇万〇、〇〇〇円をもつて相当とする。

(三)  なお、原告らは強制賠償保険金三〇〇万〇、〇〇〇円の支払を受けているので、相続分に応じ右慰藉料債権にそれぞれ一〇〇万〇、〇〇〇円宛充当する。

(四)  弁護士費用

本件訴訟のため原告らは東京弁護士会所属弁護士宮里邦雄、同小林亮淳に委任し、成功報酬金として認容額の一割、原告寿美子につき五三万七、九三一円、その余の原告らにつきそれぞれ四三万七、九三一円を支払う旨契約した。

四、結論

原告らは各自被告らに対し、原告寿美子につき五九六万一、二四四円、同千春、同久美につき各四八六万一、二四四円および右金額中原告寿美子に対する五三七万九、三一三円につき、同千春、同久美に対する各四三七万九、三一三円につき、それぞれ本訴状送達の日の翌日である昭和四四年一〇月一八日から支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

第三  請求原因に対する被告らの答弁

一  請求原因第一項は認める。

二  同第二項中被告武信が前方不注視、安全運転義務違反の点は否認、被告幸一が事故車を所有し、被告会社の代表取締役で被告武信の兄であること、被告会社の業務内容および被告会社が事故車を同社の業務のため使用していたことならびに自賠法三条の運行供与者としての責任を負うものであることはいずれも認めるが、被告幸一は事故車の運行に対する支配もなく運行による利益も得ていないから自賠法三条による責任はない。

三、同第三項中銀一と原告らとの身分関係は認め、その余の事実は不知。

四、仮に、被告武信に過失があるとしても、本件事故の主たる原因は銀一が同日忘年会で飲酒酩酊し、前照灯を照らして進行中の事故車の直前に突然道路端の暗がりから飛び出した過失によるものであるから、過失相殺により被告らの責任は少くともその五割を軽減されるべきものである。

第四  被告らの過失相殺の主張に対する原告らの答弁被告らの主張は否認する。

第五  証拠関係〔略〕

理由

一  請求原因第一項の事実は当事者間に争いがない。

二  そこで、本件事故の原因について考えるに、〔証拠略〕を総合すると、本件事故現場は、松戸駅方面から松戸新田方面に至る幅員約一〇メートルのアスフアルトで舗装された市街地内の歩車道の区別のある平坦な道路上で、現場付近のみとおしの状態は良く、車輛の交通はひんぱんであつて、事故現場の約五〇メートル手前(松戸駅寄り)付近に横断歩道があること、本件事故当日被告武信は同日午後七時ころから流山市の新川屋で行われた勤務先の忘年会に出席して飲酒してから出席者一同とつれ立つてさらに野田市内のバー、ロンおよび寿司屋久田屋に立寄つて飲食した後、右寿司屋から泥酔した同僚の松戸市松戸新田に住む小杉勝利を送るため、同人を助手席に乗せて事故車を運転し、同日午後一一時三分ごろ、時速約五〇キロメートルで前記横断歩道付近にさしかかつた際、進路の前方に駐車中の自動車を発見したので、これを避けるため、右側によつて対向車線に入りそのまゝ進行しようとしたところ、事故現場付近の道路を左側方面から右側方向に向け、事故車の接近に気付かず、横断中の銀一を認めたので、急制動をかけたが間に合わず、事故車の前部を銀一に衝突させ、その衝撃により同人を事故車のボンネツト上にはね上げた後道路上に転落させ、同人に対し頭部強打の傷害を与え、同日午後一一時一五分ころ、同市東京外科内科病院において死亡させたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

以上認定の事実から考えると、被告武信はかかる場合その合図をし、反対方向からの交通および駐車車両の付近の交通に万全の注意を払い、減速徐行して進路の安全を確認して運転すべきであるのに、同人はこれを怠り、前方を注視せず漫然と同一の速度で対向車線に入つて進行したため事故現場直前ではじめて銀一の姿に気付き急制動をかけたが間に合わず、本件事故を発生させたものであつて、同被告に過失があるものといわなければならない。

三  そうすると、被告武信は前記認定の事実で明らかなとおり直接不法行為者として、民法七〇九条により原告らに対し、後記損害を賠償すべき義務がある。

また、被告会社が事故車を会社の業務のため使用し自賠法三条の運行供与者としての責任があるとは当事者間に争いがないから被告会社は原告らに対し、後記損害を賠償すべき義務がある。

さらに、被告幸一については、同人が事故車の所有者でありかつ被告会社の代表取締役であり、被告会社が自動車の売買、修理ならびに加工に関する業務を主として資本金一〇〇万円の会社で被告武信は同被告の弟であることは当事者間に争いがなく、これらの事実に〔証拠略〕を総合して考えると、被告会社は会社組織となつていても従業員は被告武信を含め僅か六名(現在二名)で同会社の事業所は被告幸一の住居と同一場所にあり、同被告一人が会社の業務上の指揮監督をしていたものであつて、その事実はいわば同被告の個人経営に外ならなかつたこと、事故当日同被告は被告会社の従業員の忘年会および二次会に事故車を使用させ、当初運転を予定していた訴外初見忠志が腰痛をおこしたためこれに代つて被告武信が事故車を運転することは被告幸一において当然了解される情況にあつたことが認められ、この事実によれば、被告幸一は被告会社を介して事故車を自己のために運行の用に供したものというべきであるから、被告幸一も原告らに対し自賠法三条の運行供与者として後記損害を賠償する義務がある。

四  ところで、被告らは本件事故発生について銀一に重大な過失があつたと主張するので、この点について考えるに〔証拠略〕によると、事故当日銀一は風邪気味であつたのに勤務を終えた後、同僚との忘年会に出て飲酒してから電車で帰途につき、松戸駅より歩いて事故発生時ころ事故現場にさしかかつたことが認められ、これに前記事故の原因についての認定事実を併せ考えると、銀一は本件事故現場付近の道路は車輛の交通がひんぱんであるのに横断歩道を歩行せずことさら危険な駐車車輛附近を横断し、かつ左右の交通の状況を充分確認することを怠り、左右の交通の安全を確認しないまま事故車の接近に気付かず歩行したため、ついに本件事故の発生をみるに至つたものであるから、本件事故については銀一にも過失があるものといわなければならない。したがつて、この事実はその賠償額を算定するにあたつて斟酌されなければならない。そして、右過失の割合は銀一二割、被告武信八割とするのが相当である。

五  損害

(一)  銀一の得べかりし利益の喪失

(イ)  銀一が昭和一五年二月八日生であることは当事者間に争いがなく、〔証拠略〕によれば、銀一は本件事故当時二八才の健康な男子で株式会社法華クラブの設備課機械ボイラー係として勤務していたこと、同人の死亡当時の給与は月額四万七、八〇〇円で、昭和四四年三月からは月額五万三、九一六円の給与を得ることになつており、右会社の定年は六〇才であることが認められる。なお、このほか銀一は前記勤務のかたわら臨時に有限会社永野製作所に勤務して右会社より月額三万〇、〇〇〇円の給与を得ていたとの点については、これに沿う原告守屋寿美子本人の供述部分は〔証拠略〕に照らしにわかに信用することができず、また甲第五号証もいまだ右事実を認定するにたりず、ほかに右主張を認めるにたりる証拠はない。そうすると、この点についての逸失利益の主張は理由がないものといわねばならない。そして、同人の生活費としては、右収入の三割をこえないものと認めるを相当とする。そうすると同人の年間収入額は昭和四四年分四二万三、一七四円、同四五年以降は四三万一、三二八円となる。そこで満二八才の男子の平均余命は四一年であるが、銀一が本件事故にあわなければ、両人の職業、健康状態等から考えて六〇才の定年までは就労して右収益を得続けたものとみることができる。そこで両人の右年間収入額を基礎にして同人の死亡時における現価をホフマン式計算法によつて年五分の割合による中間利息を控除して算出すると八一〇万三、四〇〇円となる。そして、銀一の前示過失を斟酌すると、右金額の八割にあたる六四八万二、七二〇円を被告らに負担させるのを相当と認める。

(ロ)  原告らと銀一間の身分関係については当事者間に争いがないから原告寿美子は銀一の配偶者として、同千春、同久美はいずれも子として、それぞれ相続分に応じて右銀一の損害賠償請求権を相続し、その額は原告ら二一六万〇、九〇六円であるということができる。

(二)  原告らの慰藉料

原告らが銀一の死亡により多大の精神的苦痛を受けたことは推測するに難くないところ、前示本件事故の態様双方の過失の程度および〔証拠略〕によつて認められる事故後原告寿美子は守屋芳保と婚姻し、その余の原告らは同人と養子縁組したことその他諸般の事情を総合すると、原告らに対する慰藉料の額は原告ら各八〇万〇、〇〇〇円をもつて相当と認める。

(三)  損害の填補

原告らが自賠責保険金三〇〇万〇、〇〇〇円を受領したことは、原告らの自認するところであるから、これを前記相続分にしたがつて原告らの各損害額から右金額を控除すべきで

(四)  原告らの弁護士費用

〔証拠略〕によれば、原告ら本件事故による損害賠償債権取立のため本件訴を弁護士宮里邦雄、同小林亮淳に委任し、その手数料を同弁護士らに支払う義務があることが認められる。そして、本件事案の内容、審理の経過、認容すべき損害賠償額を斟酌すると、被告らに賠償させるべき原告らの弁護士費用は各二〇万〇、〇〇〇円が相当であると認められる。

六  そうすると、被告らに対し原告らは各二一六万〇、九〇六円および各内金一九六万〇、九〇六円につき訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和四四年一〇月一八日から各支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度においては理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 平山三喜夫)

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